AwView 活用事例インタビュー
活用事例宮城大学 食産業学群 フードマネジメント学類 様
青果物の品質保持輸送における水分活性の役割

宮城大学 食産業学群 フードマネジメント学類
食品保蔵学研究室 准教授 兼田 朋子 様
(https://www.myu.ac.jp/teacher/food/kanetatomoko/)
宮城大学 食品保蔵学研究室では、青果物の品質保持輸送に関する研究に取り組まれており、その中で水分活性測定器『AwView』をご活用いただいています。今回は、兼田朋子准教授に「なぜ水分活性の測定が必要となったのか」、研究の背景から測定器の導入・活用に至るまでの経緯についてお話を伺いました。
※本内容は2025年6月時点の情報に基づいています。

青果物の品質保持輸送に関する研究とは
ー まずは兼田先生の研究分野について教えてください。
兼田先生 : 現在の専攻は、青果物の貯蔵、流通です。これまでの研究キャリアとして、学生時代には果樹学を専攻し、農研機構に所属したときに青果物のバルクコンテナ輸送研究に従事しました。その後、徳島県立農林水産総合技術支援センターに着任し、イチゴやサツマイモなどの品質保持輸送に取り組み、現在所属している宮城大学でも、引き続き青果物の流通に関わる研究を行っています。
ー 青果物輸送研究に関して、これまでの実績を教えてください。
兼田先生 : 徳島県での取り組みでは、徳島県産イチゴの輸出方法を、航空便から船便に置き換えることに成功しました。それまでのイチゴの海外輸出の常識は、航空便での流通が主流でした。船便は運賃は安くなる一方で、輸送時間が長くなるためイチゴの品質劣化リスクが高くなります。実際にそのままの包装でイチゴを船便輸送させた実験では、イチゴにキズや変色の発生が確認されました。この課題解決のため、MA(Modified Atmosphere)包装※1を応用することにより、船便でも航空便と同程度の品質を保ったまま輸出できる仕組みを構築し、実証試験によって、イチゴの品質に問題がないことも確認できました。
宮城県でもこれまでの研究ノウハウを活かし、宮城県産の青果物輸出における海上輸送実験に携わりながら、長期間輸送にも対応できる品質保持技術を実用化してきました。これにより、現在では官公庁、企業などから青果物輸出に関連する様々な相談を受けています。
また、このノウハウは輸出に限らず国内輸送にも応用が期待できます。例えば日本国内の物流2024年問題ではトラックドライバー不足がありますが、品質保持技術を活用し、国内輸送を陸送から海運へモーダルシフトできる仕組みができれば、トラックドライバー不足の緩和につながります。

兼田先生 インタビューのご様子
※1 ガス置換包装とも呼ばれ、包装内の酸素濃度を制御することで、青果物の呼吸を抑制し、長期間品質を保ったまま流通できる包装仕様のこと
品質保持輸送の新しいかたち
ー 現在取り組まれている研究のポイントを教えてください。
兼田先生 : MA包装を使えば青果物の長期輸送に高い効果があることは実証できましたが、MA包装にも課題はあります。それは生産者側で袋詰めしてヒートシールが必要となるため、包装作業に手間がかかることです。たとえば、イチゴは果実がどれだけ収穫できても、包装が間に合わないと出荷できないため、作業時間のかかるMA包装は、生産者から嫌がられる傾向があります。
そこで、現在ではMA包装を使わずに長期間品質維持できる方法を研究しています。これまでの研究結果から、低温環境であれば青果物の呼吸量が抑制できることが確認されています。つまり、MA包装を使わずとも、リーファーコンテナを利用すれば、長期間の輸送でも品質保持ができることになります。
ただし低温輸送だけでは解決しない課題があります。それは青果物の表面乾燥です。特にイチゴは果肉表面が乾燥すれば、艶やハリがなくなり、消費者目線では購買意欲低下の要因になります。一方でイチゴ目線からは、乾燥により表面が軟らかくなるため、傷がつきやすくなる、カビが発生しやすくなるなど品質劣化要因となります。現在、イチゴの表面乾燥に着目して、それを抑制するための研究を行っています。
これまで、青果物の乾燥に関する評価方法は、人の目で色や状態を確認することが多く、数値化する場合には、質量減少率※2が用いられてきました。しかし質量減少率では、果実の内部からの水分蒸散・蒸発や、水分外も質量減少の要因になるため、果実表面の乾燥度合を適切に表す指標としては疑問がありました。そこで、果実の表面乾燥度を定量的に評価する新しい指標として、水分活性に着目しています。

兼田先生が水分活性に着目された経緯
※2:果実の乾燥、蒸散または腐敗などにより、時間の経過とともにその重さがどれだけ減少したかを示す割合のこと。農業・食品分野では、貯蔵・輸送のプロセスにおける品質管理の指標とされる。
水分活性測定器の導入背景
ー 水分活性測定器 AwViewを知ったきっかけと、導入された理由を教えてください。
兼田先生 : AwViewを知ったのは、販売店である株式会社アオバサイエンス様からご紹介いただいたことがきっかけでした。AwViewは価格が手頃であることに加え、コンパクトなサイズ感も現在の研究用途にとても適していました。
これは実証試験時に輸出先でも青果物の状態を確認することがあり、大きな測定器では持ち運びが困難となるので、小さくて持ち運びしやすい測定器が必要となるためです。また複数の試験品を同時に測定することを目的として、6台購入することとしました。

導入された水分活性測定器「AwView」
今後の展開について
ー 今後の研究の取り組む方向性について教えてください。
兼田先生 : 水分活性と青果物の乾燥の関係に関して、今後、基礎的な実験を積み重ね、詳しく評価していく必要があります。
並行して、今後は青果物の品質保持包装に関わる論文の発表に注力していきたいと考えています。宮城大学には2022年に着任し、当時は実験設備もない状態で研究活動が始まりましたが、2025年度からはインキュベータなど、基礎的な実験ができる環境を整えることができています。AwViewによる水分活性の検証も含め、今後は様々な実験を行いながら、その結果をもとに論文を投稿していくことが、当面の目標となります。

インキュベータを用いて実験を実施
ー 今後、神栄テクノロジーに期待することを教えてください。
兼田先生 : 今回は、イチゴの表面乾燥を数値化する指標として水分活性にたどりつきました。AwViewの用途としては、このような使い方はまだ一般的ではないかもしれませんが、青果物の水分活性の測定は、今後も研究や応用の可能性が拡がっていく可能性もあります。神栄テクノロジーには、湿度水分を測定する専門メーカーとして、このような新しいアプリケーションでの技術的側面でのアドバイスや、状況によっては共同研究なども期待したいと考えています。
※本内容は2025年6月時点の情報に基づいています。